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2019.07.12更新

吉村泰典先生に聞く 妊活を始める前のプレコンセプションケア

プレコンセプションケアとは、将来の妊娠を見据えて若いうちから取り組む健康管理のことをいいます。妊娠・出産のチャンスを増やし、生れてくる子どもが健やかに育つために重要なこととして注目されています。いつから始めて、何をすればいいのでしょうか? 産婦人科医で慶應義塾大学名誉教授の吉村泰典先生にうかがいました。

小さく産んで大きく育てるは間違い

子どもは小さく産んで大きく育てるのがいいとされていましたが、もはやそれはありえません。確かに、私が医者になった40年前頃は、妊婦さんは痩せましょうというのが一般的でした。太りすぎは、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を発症する恐れがあるからです。

しかし、今、妊婦さんを診るときに注意しなければならないのは、太りすぎよりも「痩せ」です。特に日本の若い女性には痩せ願望があって、日常的にダイエットをして妊娠する前から痩せている人がたくさんいます。この痩せ願望は妊娠しても続き、過度な体重制限をする傾向があります。その結果、妊娠中も体重が増えず、非常に大きな問題になっています。

1980年と2000年の正期産で生れた赤ちゃんの体重をくらべると、2000年生まれのほうが男女ともに平均で200gも少ないことがわかっています。これはとても心配な状況です。妊娠中に痩せている女性からは、出生体重が2,500g未満の「低出体重児」が生まれる割合が高いことがわかっています。

小さく生れた子どもが大人になったとき、どのような影響があると思いますか? 将来、糖尿病、高血圧、脳梗塞など、生活習慣病(メタボリックシンドローム)になりやすいことが明らかになっているのです。

妊娠中の栄養不足が次世代に影響

 

1986年に英国のパーカー教授らは、胎児期の環境が将来の生活習慣病の発症に影響を及ぼすことを提唱しました。要するに、痩せている女性が妊娠すると、胎児は非常にストレスが高い状況下で代謝の経路ができます。その代謝の経路を生れてからも持ち続けるため、将来的に生活習慣病(メタボリックシンドローム)になる確率が高くなります。

それだけではありません。低体重児として生れた子どもが大人になり、妊娠・出産をすると、またその子どもも低体重児として生れる確率が高いことが報告されています。低体重児で生れた女性は、妊娠すると妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群、早産のリスクが高くなります。このように、妊娠中の栄養不足は、次の世代、そのまた次の世代にも影響を及ぼす恐れがあるのです。

現在、パーカー仮説は、DOHaD(※)という概念に進展しています。胎生期だけでなく生後直後の子どもの健康・栄養状態が、成人になってからの健康に影響を及ぼすと考えられています。現代女性の痩せと栄養不足が、どれほど深刻な問題かわかっていただけたと思います。

(※)Developmental Origins of Health and Disease

思春期からのケアが大事

今、プレコンセプションケアが注目されています。これは、妊活を始める前から、将来の妊娠・出産に備えた健康づくりをしていく取り組みです。

若い女性の痩せや栄養不足などの問題からもわかるように、広い意味での妊活は思春期から始まっていると言ってもいいでしょう。例えば、骨ができるのは15~16歳がピークです。特に女性の場合は、20歳以降は骨の量が増えません。20歳までに体がつくられることを考えると、思春期からのケアがとても重要になってくるのです。

極端な例ですが、日本では女性アスリートの栄養不足が問題になっています。長距離ランナーが骨折しやすいのは、痩せすぎと栄養不足で無月経になっているからです。無月経になると女性ホルモンのエストロゲンが出なくなり、骨粗鬆症や疲労骨折が起りやすくなるのです。

それこそ、思春期は、栄養バランスの取れた食事をしっかり摂ることが大事。月経を整え、妊娠しやすい体をつくるために、規則正しい食事をして、十分な睡眠、適度な運動も心がけてほしいですね。

参考資料:厚生労働省 eヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-06-002.html

吉村 泰典 先生
慶應義塾大学名誉教授、福島県立医科大学副学長、内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)。1975年慶應義塾大学医学部卒業。
米国留学等を経て95年より同大学医学部産婦人科教授、現在は同大学名誉教授。
日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長など、数々の学会理事を歴任。
日本における不妊治療の第一人者として数多くの患者の治療にあたる。
2012年に女性と子どもの未来を考える一般社団法人吉村やすのり 生命(いのち)の環境研究所を設立。
女性が安心して子どもをつくり育てられる社会の形成を目指して尽力している。
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