
「プレコンセプションケア」という言葉が浸透してきたようです。しかし、具体的にいつ何をすればいいのかは、あまり知られていないかもしれません。将来の妊娠を見据えたヘルスケアのことを言いますが、妊娠のためだけのケアではありません。プレコンセプションケアのコンセプトを理解すれば、いつ何をすればいいのかも腑に落ちるはず! 産科婦人科舘出張 佐藤病院の院長で、女性の心と体の健康に取り組む佐藤雄一先生に話をうかがいました。
プレコンセプションケアの誤解
将来の妊娠を考えながら、自分の心身の状態を知って、毎日の生活と向き合うことがプレコンセプションケアです。妊活の一環のように捉えられがちですが、そこに重点を置くものではありません。プレコンセプションケアとは、もっと広い世代に向けた取り組みです。日本の不妊治療の技術は年々進んでいます。しかし、現在の日本では将来の妊娠のために何をすればいいのかという考え方は少なく、若い女性の健康状態がよくありません。
日本のカップルの6組に1組が不妊です。理由はいろいろ考えられますが、一つに女性のライフスタイルの変化があります。女性の活躍が当たり前になって仕事にやりがいが持てるようになった一方で、ストレスや不規則な生活習慣によって妊娠力を低下させている可能性があります。晩婚化・晩産化も進み、加齢による卵巣機能の低下だけでなく、婦人科疾病などを合併する可能性が高くなり、妊娠・出産のリスクは高まります。
もう一つ、私が気になっていることは、生活のクオリティの低下です。慢性的な頭痛や腰痛、冷え、肩こり、不眠、生理痛などがあると、生活の質は落ちますよね。これらの不調も、プレコンセプションケアを実践すれば改善すると考えています。
ブライダルチェックとは違うけど
子どもを産みたいと思ったときに、すぐに妊娠できるとは限らないことも認知されてきました。プレコンセプションケアとして、パッケージ検診を受けようと思う人もいるかもしれません。自分の体の状態を知るのは大事なことですが、プレコンセプションケアは、結婚前のブライダルチェックとは違います。産める体をつくるために、生活習慣を整えましょうというものです。本来なら、中学生・高校生の性教育のところから自分の体の仕組みを知って、将来のための健康管理をしてほしいですね。
若いときからプレコンセプションケアを実践していけば、体の老化や卵巣機能低下のスピードを緩やかにすることができるかもしれません。その結果、子どもを授かりたいと思ったときに、スムーズな妊娠・出産ができる可能性は高くなると考えられます。
女性らしく美しく元気に生活するアドバイス
私が考えるプレコンセプションケアは、女性が、女性らしく美しく元気に生活するためのアドバイスです。何をすればいいのかと聞かれたら、自分の体と向き合うこと、正しい健康の知識を得ること、知識に基づいて実践することだと答えます。もう少し具体的に言うと、適切な食事、運動、睡眠を心がけ、健康的な生活習慣を身につけることですが、これが意外とちゃんとできていないんですよね。
私がプレコンセプションケアのなかで重視していることは、ちゃんと食べることです。ご飯やパンなどの炭水化物のほか、魚・肉・卵などのタンパク質、野菜をしっかり摂ること。なかでもタンパク質は、毎日手のひらに一杯分は摂ってほしい栄養素ですが、そうした知識が特に若い女性には不足しているようです。実際、日本の若い女性にやせ過ぎが多いのは深刻な問題です。2017年の国民健康・栄養調査の結果は、やせ(BMI<18.5 kg/m2)の割合は、20~50歳代のいずれの年齢階級も10%超であり、特に20歳代では21.7%でした(厚生労働省発表)。つまり、5人に1人はやせ過ぎです。
やせ過ぎということは、低栄養状態ということです。エネルギーだけでなく、タンパク質をはじめとして多くの栄養素が不足していることが調査でわかっています。これは、不妊や流産、早産、貧血、子宮内胎児発育遅延など、妊娠・出産のリスクを高めることになります。妊娠してから食生活を変えようと思ってもなかなかできません。妊娠前から栄養についての知識を深めておくことが大切です。
生活のクオリティをアップ
プレコンセプションケアには、妊娠・出産をしやすくなる、自分自身の生活のクオリティを上げる、将来、生れてくる赤ちゃんを健康にするという3つの目的があります。適切な食事、運動、睡眠を自分自身で管理して、健康的な生活習慣を身につければ、体は引き締まって美しくなります。美しく健康的な体を手に入れることは、毎日のパフォーマンスを高めて、すてきな人生を送ることにつながります。ひいては、元気な赤ちゃんを授かるチャンスを増やすことにも直結しているのです。
<参考図書>
『今日から始めるプレコンセプションケア』(佐藤雄一著・ウィズメディカル株式会社刊)

産科婦人科舘出張 佐藤病院 院長・佐藤病院グループ 代表
医学博士日本産婦人科学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、公益財団法人日本体育協会公認スポーツドクターなど、多くの専門医資格を持ち、女性の心身の健康を支援。予防医療の観点から食事や栄養、運動など生活習慣の大切さを指導している。2018年秋、プレコンセプションケアを実践できるフィーカ レディースクリニックを東京日本橋に開設した。