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2019.09.04更新

吉村泰典先生に聞く 日本の妊婦さんを風疹から守りたい

風疹は、妊娠中の女性が絶対にかからないようにしたい感染症です。妊娠初期にかかるとお腹の中の赤ちゃんも風疹ウィルスに感染して、難聴、白内障、心臓の奇形などの障害を持って生れてくることが多くなります。日本は先進国の中でも風疹が流行しやすい国だと言われていますが、その原因とは? 妊婦さんを風疹から守る取り組みを、産婦人科医で慶應大学名誉教授の吉村泰典先生にうかがいました。

赤ちゃんの先天性風疹症候群とは

妊娠早期(20週ごろまで)に風疹にかかると、胎児が風疹ウィルスに感染して、難聴、心疾患、白内障、精神や身体の発達の遅れなどの障害を持って生れる可能性があります。これらの障害を先天性風疹症候群と言います。妊娠週齢が12週までの初感染で発症が多く見られ、20週をすぎるとほとんどなくなります。妊娠1カ月以内にかかると、ほぼ100%発生するとみられているため、妊活中からの予防が必要です。

風疹の予防に有効なのはワクチンです。産婦人科では必ず初診で妊婦さんの風疹の抗体価を必ず調べます。今は風疹のワクチンを2回打つためほぼ抗体がつきますが、1回打っただけでは、抗体がついていないことや抗体価が低いこともあります。妊娠中の女性はワクチンの接種が受けられません。妊婦さんが抗体を持っていなかったり抗体価が低い場合には、すぐに同居する家族の抗体値を調べ、必要に応じてワクチンを打ちます。妊娠中はできるだけ不要な外出を避け、人混みに行かないように注意しなければなりません。

日本は風疹の流行国

日本では過去に何度も風疹が大流行しています。2012~13年には風疹患者報告数は約17,000例に上りました。また、2012~14年の先天性風疹症候群の患者数は45例が報告されています。2018年にも風疹が流行しました。一旦は低水準に落ち着いた風疹患者数が再び増加に転じて約3,000例が報告されました。これは先進国では極めて多い数字です。アメリカのCDC(疾病対策予防センター)やFDA(食品医薬品局)は、妊婦さんは日本へ渡航しないよう警告しています。風疹の流行国とみなされているのです。

現在30~50代の男性はワクチンの接種を受けていないか1回しか受けていません。そのため抗体を持っていなかったり抗体価が低く、この年代で風疹患者が多く発生しています。男性が職場などで風疹にかかって、家庭で妊婦さんに感染させる危険性が非常に高いのです。国では成人男性の積極的なワクチン接種勧奨するなど風疹予防を啓発し、2020年までの風疹排除を目指しています。

参考資料:国立感染症研究所ウェブサイト 2020年度の風しん排除に向けて
https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2343-iasr/related-articles/related-articles-434/6450-434r12.html

ワクチンを打とう!

日本で風疹が流行するのは、ワクチン行政の誤りだと私は思います。ワクチンに対する抵抗感があるようです。1983年に留学先のアメリカで子どもを幼稚園に入れようとしたら、風疹の抗体証明書が必要だと言われました。このような場合、日本では病院へ行って抗体価を調べますが、アメリカではすぐにワクチンを打ちましょうと言います。お金を払って痛い思いをして採血をして、また病院に来るのなら、今、ワクチンを打つほうが楽だという考え方なんですね。

今は生活習慣病が増えていますが、昔の病気といえば感染症が主体でした。感染症は抗生物質を飲めば治りますが、撲滅することはできません。しかし、ワクチンを打つことは病気を撲滅することになります。かつてジェンナーが天然痘のワクチンを開発して、100年、200年かけて天然痘という病気は地球上から根絶されました。これがワクチンの意義です。ワクチンは8割の人が打って相乗効果が出てきます。日本では男性が風疹のワクチンを打っていないため接種率は5割にとどまっています。非常に風疹に感染しやすい国だと言えるでしょう。

子宮頸がんでも同じ問題が起きている

子宮頸がんは、日本の若年層の発症が増加していることが問題になっています。発症の原因の多くがウィルス感染ですので、ワクチンを打つことで予防できます。性交渉があれば誰もがかかる可能性あるため、本来ならばセクシャルデビュー前の小・中学生のうちにワクチンを打つべきです。例えば、アフリカのルワンダでは子宮頸がんのワクチン接種率は99%です。このままでは、将来、子宮頸がんは日本人しかならない病気になるかもしれません。

検診で早期発見はできたとしても予防はできません。妊娠したときに初めて産婦人科を受診する人が多いため、そこで子宮頸がんが見つかることもあります。毎年1万人が子宮頸がんにかかり、2700人が亡くなっています。先進国で子宮頸がんが増えているのは日本だけといっても過言ではありません。子宮頸がんワクチンも風疹と同じように、ワクチン行政の問題点が浮き彫りになっているのです。

吉村 泰典 先生
慶應義塾大学名誉教授、福島県立医科大学副学長、内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)。1975年慶應義塾大学医学部卒業。
米国留学等を経て95年より同大学医学部産婦人科教授、現在は同大学名誉教授。
日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長など、数々の学会理事を歴任。
日本における不妊治療の第一人者として数多くの患者の治療にあたる。
2012年に女性と子どもの未来を考える一般社団法人吉村やすのり 生命(いのち)の環境研究所を設立。
女性が安心して子どもをつくり育てられる社会の形成を目指して尽力している。
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