
近年の調査で、日本人の肥満者は男性のおよそ3人に1人、女性も5人に1人の割合であることがわかりました。とくに男性は30歳以上になると、一気にBMI値25以上の肥満者の割合が増える傾向にあります(※)。なかには、日頃からあまり食べないようにしているのに、太ったという人もいるのではないでしょうか。実は、太らない食べ方には法則があるのです。
朝食を抜くと太る割合が5倍になる

朝食はきちんと食べていますか? 忙しい、調理が面倒、最近はデトックス効果があるとして朝食を抜く人が多いようですが、それはむしろダイエットに逆効果。「朝食を抜いている人はカロリー摂取量が少ないにもかかわらず、朝食を摂っている人よりも肥満の危険性が5倍も高い」ことが、マサチューセッツ医大のマー・ヤンセン教授らの研究データからわかっています。
なぜ、朝食を抜くことが肥満につながるのでしょうか? それには、時計遺伝子が大きく影響しています。時計遺伝子とは、私たち人間の身体に備わっている時間計測を行う仕組みのことです。つまり「体内時計」に影響を与えている遺伝子ということができます。
私たちは、朝目覚めて、昼間に活動して、夜は眠るという生活サイクルを基本としていますが、このサイクルに合わせて行動できるようにホルモンの増減などをコントロールするのが時計遺伝子です。近年の研究で、この時計遺伝子が食事にも大きく影響していることがわかりました。
食べる時間で代謝に差がつく

時計遺伝子の働きによって、たとえ同じ食事でも、食べる時間で吸収率や代謝がまったく異なります。その結果、栄養所要量やカロリーが適切であったとしても、食べる時間によって太ってしまう場合があるのです。食事の量やカロリーを控え目にしているのに、なかなかやせないという人は、いつ何を食べればよいかを意識するといいでしょう。野菜を先に食べる、ゆっくり噛んで食べることも太らない食べ方です。
時計遺伝子には、脳内に存在する「中枢時計遺伝子」と心臓や肝臓、筋肉などの全身の細胞内に存在する「末梢時計遺伝子」があります。これらの時計遺伝子は24時間10分の周期で動いているため、ある方法で24時間にリセットしなければなりません。
ある方法とは? 中枢時計遺伝子は朝日を浴びることでリセットします。一方の末梢時計遺伝子は朝食を摂ることで調整できます。その際に重要なのが、中枢時計遺伝子と末梢時計遺伝子を「ほぼ同じタイミングでリセット」することです。そのためには、起床後2時間以内に朝食を食べることがポイントです。
朝食を食べなければ、末梢時計遺伝子がリセットされないため、身体が目覚めることはできません。そうなれば、代謝が悪くなりエネルギーが消費されず、午前中は頭が働かなくなります。また、朝食を抜くと昼食だけでなく夕食まで過食しがちになります。これは、身体の防衛反応によるもので、食べ物が入ってこないことを見越して脳が多めに食べるように指示を出すためです。その結果、消費されないエネルギーが、脂肪となって蓄積することになります。
朝、頭と体にスイッチを入れるために、ビタミン類も摂取しましょう。朝、目を覚ますことができるのは、副腎皮質ホルモンの働きによるところが大きく、最近の研究から、ビタミン類の一部にはこの副腎皮質モルモンの適切な分泌を促すことがわかっています。
体内時計が正確なら、水曜のランチは好きなものを

朝食をきちんと食べて、体内時計が正確なリズムを刻めば、消費エネルギーも上がります。お昼になればお腹もすくでしょう。中枢時間遺伝子に含まれる「ビーマルワン」というタンパク質は、栄養素から脂肪をつくる働きがあります。このビーマルワンは1日のなかで10時~16時が最も活動が低下しています。つまり、1日のうちで最もカロリーを気にしないで食べられるのは昼食です。昼食を抜いたり控え目にして夕食を食べ過ぎるくらいなら、昼食でごちそうを食べたほうが太りにくいのです。
遺伝子時計は1日単位で動いていますが、1週間単位でもサイクルを構築していることがわかっています。その1週間サイクルでは、水曜が最も消費エネルギーが高くなります。つまり、水曜のランチはカロリー高めの食事もOK。好きなものを思う存分食べてよい日があれば、ダイエットを続けられるのではないでしょうか。しかし、食べ過ぎは禁物。体内で代謝しきれなかった栄養素は脂肪になることをお忘れなく。
※データ出典 平成30年国民健康・栄養調査の概要 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000635990.pdf
『あなたの健康寿命は「葉酸」で延ばせる』(香川靖雄著・ワニブックス刊)
『食べる量が少ないのに太るのはなぜか』(香川靖雄著・幻冬舎刊)